thank you for smoking

水曜なので映画に行ってきました。
前回逃したthe kingはすでにやっていないので、やっている中で見てもいいかなというのはこれ以外にはダビンチコードのみ。
これは多分まだ長くやってるだろうからと思って違う映画を選択。

ちょっと風刺的なコメディで、題名からわかるかと思いますが、タバコ業界に関する事です。
アメリカではイギリスよりも喫煙に関する話題に敏感なようです。
イギリスではまだ公共な場所での全面禁煙にはなっていません。スコットランドやお隣アイルランドではいち早くパブやレストランでの全面禁煙に踏み切りましたが、イギリス(イングランド)はまだどうするのか細かいところで迷っているようです。

映画の主人公は、タバコ協会(とでもいうのかなあ)の代弁者(代表者)で、要するにタバコの推薦というか、タバコの弁明役を務めています。公演をやったりあちこちのトークショーに出て、タバコの被害者と一緒に出演したり、どうやったらタバコのイメージをあげ、売上を伸ばせるか、とか。

モラルがないのか!とか死神!とか、とにかく槍玉に上がりがちな嫌われ役。よっぽどタバコに執着がなければやれない仕事…と思いきや。そういうわけでもないみたい。
確かに彼はちょっとモラルにかけてるような感じはするけど、それよりもその代弁者という役割どころを「仕事」と捉えてるところがとってもシニカルです。
プライドとかモラルとかよりも、要するに「住宅ローンのため」と言い切ってしまうドライさ。そして、タバコだから擁護するのではなく、「自分がこの仕事に向いているから」やってしまうシュールさ。友人が銃保護協会とアルコール擁護協会の弁明者、というのも皮肉でしょ?

かなり皮肉でブラックでスパイスの効いたコメディです。面白かったです。

子供と「バニラとチョコとどっちが一番おいしいか」と議論してしまう場面は、かなり現代と言う物を如実に表しているような気がします。
彼は息子に向かって、自分の方が正しい、というわけです。なぜなら、チョコもおいしいけど、バニラも同様においしいわけで、そうしたらチョコが一番おいしいわけではないから、おまえは間違ってる、というわけ。で、相手が間違ってるんだから、自分が正しいんだ、という。

argument for the sake of argumentという言葉がぴったりです。つまり、議論するための議論であって、それが正しいかどうかは問題ではないわけです。そして、自分が正しいと信じていなくても議論できるわけです。そういう議論で口が立つ彼は、自分のその得意な事を生かした仕事をしてるだけ、という認識が強いのですよね。
こわいけど、ある意味今みんなそんなもんなのかなあ、って思うともっとこわい。私だって、仕事は仕事って割り切っちゃう部分があるし。

そういう面からいうとタバコだけではなく何に対してでも、今の世の中そういう風になってるなあと思わざるをえません。そして、実際上、正しいとかよいといわれている事が議論上で勝つ方が難しいんだよなあ、と気づかされます。なぜなら、一般的にすでによいとか正しくあるべき、という事柄は常に正しくないといけない。それを維持していくのは、すでに悪い事とか間違ってることをよく見せるよりもずっと難しい事です。
悪い事というのは、すでに人の認識の中で、「悪い」と思われてるのですから、戦略が間違って何か印象が悪い事があっても、それ以上は印象は悪くなりにくい。でも、何かちょっとでもいい事があると、見直す事のできるマージンが大きいのです。
逆によいといわれてる事が、ちょっとでも間違ったスキャンダルなどが起きると、その印象が悪くなるのは早い。

何事もそうだけど、悪いといわれてる事の方が起こりやすい傾向にあるわけで。

それでもって、すでに悪いといわれてる事は、戦略的に何を持ってきても、まあダメージは少ないけど、よいといわれてる側は、一般モラルに反した戦略を持ってくるとそれだけで印象が悪い。
勝ち目が少ない戦いなわけです。
そう思うと、世の中不条理な事がまかり通るのもあたりまえなのかもと思ったらちょっと気が滅入る?(笑)